えらんで

作・うまっこげきぶと土田峰人
 
千葉県立松戸馬橋高等学校演劇部

平成23年度秋季上演台本

第一稿 Ver1.0
2011/8/12
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よいお芝居作るための たたき台です。
登場人物
中村昭夫・父 
美子・母
果林・姉
一義・兄
るみ・妹
たつ・祖母
長谷川・春美の担任
山本・カウンセラー
クラスメート・祭の人々   

プロット
@祭りで男が踊っている。回りが殴りかかる悪夢と変わる。
A悪夢から目が覚める。手元に踊り鈴が落ちている。こんなものを見ていたから悪 夢におそわれた。焼酎をあおり二皿の食事を出す。娘息子を呼び出し食事をとら せる。気まずい間。息子はPSPに逃げる。親父と口論となる。
 末娘がやめさせ二人は食い始める。「そんなものやってないで仕事しろ」と息子 に言う。「てめえのせいでこうなったんだよーん」
 ふたたびの口論。娘怒る。娘をからかい始める。男居るのか。おい何してんだよ。
 娘仕事しろとなじる。すぐ会社やめちゃう。風呂入れ。選択したものきろ。そん なんだからお母さん出て行ったんだ。出て行く二人。
 酒。錫杖を投げつける。
B祭の夜。金魚すくいの前の家族。
C男の幼児期からの思い出。
D男の誕生日を祝う会。長女の成長
 家族の思いやり。そして冒険と失業の予感。
E失業の実際。一家の苦労。
F失業あがき、そして酒。妻の苦労。心の安らぎの他人の存在。ジェラシー。破局。    選択。
G長女、家を離れる。
H学校の呼び出し。娘が起こした暴力事件。
I妹と父を責め立てる。
J妹、勉強、ひたすら勉強。兄、オルゴール作り。宅配便。カード。姉の帰宅。母 の情報。てづくりの法被。
おいしいプリン。おかあさん、かえりたいのかな。斎藤さんとうまくいってないのかな。おまつりにいこうか。

第一場 悪夢

軽快な音とともに踊りの集団。もしかしたら家族かもしれない。
音がゆがんでくると踊りもおかしくなり男はみんなに殴られ倒れ込む。

第二場 夕食

気がつくと男は一人、踊り鈴を握っている。じっと鈴を見つめ、置き、ごはんとおかずを簡単に盛った卓に並べる。

1 │父 │おい。おい。おい。

るみ、現れる。一義、現れる。

2 │父 │食え。ほら、食え。

二人、座る。食べない。一義、PSPを取り出し父に背を向け始める。

3 │父 │やめろ。おい。食え。やめろ。かず。
4 │一義 │うるさい。(PSPをやめない)
5 │父 │なんだと。やめろ。がちゃがちゃがちゃうっせえんだ。
6 │一義 │酔っぱらいの方がうるせえ。
7 │父 │なに。
8 │るみ │やめて。食べて。

食べ始める、二人。

9 │父 │かず、おめえ一日うちから出ねえでおかしくなんねえのか。あ、い
│ │くつになったんだ、ほんとなら
10│一義 │おめえだってでてねえだろ
11│父 │二十歳過ぎたろおめえ、ほんとなら高校出て、大学とやらに行っ
│ │て、女が出来て
12│一義 │やめろ。
13│父 │あ、それともどっかガス会社でも入ってしゅうきんでえすとかやる
│ │のか、それとも宅急便の配達とかしてて、初めての月給ですって親
│ │孝行……
14│一義 │親なんかいねえ。
15│父 │くそがきが。
16│一義 │……
17│父 │るみ。
18│るみ │…
19│父 │学校行ってるか。
20│るみ │いってる。
21│父 │バイトやってるんだよな。
22│るみ │やってる。
23│父 │どこで。
24│るみ │コンビニ。
25│父 │駅前、男と歩いてたろ。
26│るみ │……
27│父 │誰だあれ。ふん。二人で暗いところ入っていったよな。どこいった
│ │んだ。
28│るみ │関係ない。
29│父 │関係ない?おい、かず、やめろ、そんなどうしようもねえものやる
│ │な。
30│一義 │うるさい。
31│父 │やめろって行ってるんだ。すてちまえ、そんなもん。おれがすてて
│ │やろうか。
32│一義 │うわーっ。
33│昭夫 │仕事をしろって言ってるんだ。
34│一義 │おやじこそ仕事しろ。
35│昭夫 │……
36│るみ │なんで仕事の話になると黙るの。
37│昭夫 │……
38│るみ │仕事してよ。
39│昭夫 │派遣やってるよ。
40│るみ │派遣は仕事じゃない。
41│昭夫 │うっせえな。
42│るみ │ちゃんと仕事してよ。
43│昭夫 │こねえんだよ仕事が。さっさと食え。
44│るみ │(間)お父さんさあ、仕事行っても半日もしないうちにやめちゃっ
│ │たり、遅刻していったり、やっとつけた仕事でも現場の人と喧嘩し
│ │て怪我させちゃうし、お給料貰っても家に入れるどころか、全部遊
│ │びとかお酒に使っちゃって、家に入れたこと一度もないよね。遊ぶ
│ │金なくなったら私の財布からお金抜き取っているでしょ。わからな
│ │いとでも思った。それに一日中家にいて食べたものも着たものもそ
│ │のまんま。ねえ、その服何日目?いいかげんくさいんだけど。そん
│ │なにだらしないからお母さん出てっちゃったんじゃないの!
45│昭夫 │うっせえ。

るみ、退場。
一義、退場。
昭夫、酒をあおる。座る。踊り鈴を振ると寝てしまう。

第三場 幼い日

祭りの音とともに踊り鈴を持った若いたつが現れる。

46│たつ │昭夫飴おいしい?。あら、落ちちゃった。あらあどうしよう。こ
│ │ら、落ちた飴口に入れちゃ駄目。わかる落ちた飴には、こら、怒ら
│ │れたらパンツぬぐ癖やめなさい!あ、すみません。こら!

たつが追いかけると5歳児の昭夫、逃げる。
時がたつ。小六の昭夫、鼻歌歌いながら木彫りの舟を作っている。
エプロン姿のたつ、洗濯物を運びながら。

47│たつ │また、その歌。何か作る時はいつもでちゃうね。
48│昭夫 │うん。

時がたつ。中1の昭夫、女の子と二人。

49│昭夫 │読んでくれた?
50│女の子│え?
51│昭夫 │そういうことなんだけどよぅ。なんつうか…俺
52│女の子│ごめん。
53│昭夫 │へっ?
54│女の子│私〇〇〇な人が好きなの。じゃあね。(退場)
55│昭夫 │あ……。

時がたつ。男が走ってくる。一緒にもも上げしながら走る。

56│先輩 │わっせわっせわっせ。
57│昭夫 │わっせわっせわっせ。
58│先輩 │正拳
59│昭夫 │正拳
60│先輩 │うりゃ
61│昭夫 │うりゃ
62│先輩 │荒川にかつぞ!
63│昭夫 │かつぞ!
64│先輩 │三中ぶっ潰せ!
65│昭夫 │ぶっつぶせ!
66│先輩 │己に克つぞ!
67│昭夫 │…女に勝つぞ!
68│先輩 │女なんて関係ねぇ!
69│昭夫 │女なんて関係ねぇ!
70│先輩 │青春は汗だ!
71│昭夫 │女なんか関係ねえ!

時がたつ。高校中退の昭夫。作業場で。

72│親方 │ノコギリ、持ち方が違う。
73│昭夫 │すみません。
74│親方 │そんなんじゃ真っ直ぐ切れねえだろ。
75│昭夫 │すみません。
76│親方 │足が違う。
77│昭夫 │すみません。
78│親方 │どれだけ時間かけてんだよ。
79│昭夫 │すみません。
80│親方 │これだから中卒はよお。(退場)
81│昭夫 │ちっ。

時がたつ。20才の昭夫。

82│美子 │夏祭りの昭夫さん、かっこよかった。私に踊りを教えてくれます
│ │か。
83│昭夫 │はい。

時がたつ。22才の昭夫。

84│昭夫 │果林…果林が立ってる。果林が立った!母さん!母さん、あ。ある
│ │けるか、歩けるか。
85│美子 │頑張れ果林。
86│昭夫 │よし。いけるぞあともうちょい。
87│美子 │たったー。おいちいにっ。

一瞬に時がたつ。カリン16才。

88│果林 │お母さん聞いてよ。お父さんったら私のシャンプー勝手に使った
│ │の。信じられない
89│美子 │あら
90│果林 │お父さんはメリットでしょ?エッセンシャルは私の。

一瞬に時がたつ。一義12才。

91│一義 │見て見て父ちゃん〇〇作ってみたんだー!
92│昭夫 │お?よくできてるじゃねぇか
93│一義 │次は〇〇〇にも挑戦してみようと思ってるんだ
94│昭夫 │明夫  そうか、頑張れ

一瞬に時がたつ。るみ8才。

95│るみ │お父さーん!この浴衣似合う?
96│昭夫 │おぉ可愛いじゃないか
97│るみ │お祭り行こう

 お祭り。通行人ざわざわ

98│るみ │お父さんこの赤い金魚と黒い出目金、どっちがいいかな。
99│昭夫 │選ぶのはるみ。
100│るみ │出目金。
101│昭夫 │よし待ってろ。おりゃっ
102│たつ │おばあちゃんがとってやろう
103│果林 │お父さん氷イチゴとレモンどっちがいい。
104│昭夫 │お父さんは黄色がいい。
105│果林 │どっちもあげないー
106│一義 │お父さん、キャラメルと缶ビールどっちがいい。
107│昭夫 │ビール
108│一義 │キャラメルしよ。いくよー!せーのっ
109│みんな│はいった!凄いなあ
110│美子 │お好み焼きとたこ焼きどっち食べる
111│昭夫 │美子。
112│みんな│ぅわー
113│子供達│おじさんおじさん、綿菓子買ってー
114│昭夫 │吉田さんちの子、
115│果林 │あっち

お祭り。みんなで踊ろう馬踊り大会。

116│果林 │いい。緊張しないで。お父さん、腕のばしてね。おばあちゃん、大
│ │丈夫。
117│たつ │まかしといて。
118│果林 │おかあさん、扇子大きくね。
119│昭夫 │優勝したら、ハワイにいけるんだな。
120│果林 │そう二泊三日。
121│美子 │負けらんないわよ。
122│果林 │まって、あの3チームの次だからね。

他チームの踊り。

123│MC │さあ、いよいよパフォーマンス部門最後の組です、6人の審査員が
│ │出した、ここまでの最高点は58点。
124│るみ │行くよ。

中村家の踊り、見事。

125│MC │さあ、どうだ、10点、10点、10点、10点、10点、おお、
│ │満点だ。優勝はチムーオブナカムラ。
126│家族 │やったあー。

中村家の踊り、見事。

127│MC │さあ、どうだ、10点、10点、10点、10点、10点、おお、
│ │満点だあ。優勝、優勝、ハワイ旅行。

場面は家に。食器を並べる

義一 今日カレーか
るみ  お母さんあれは?
美子  しーー!まだよ
明夫  お。カレーだ
義一 おばあちゃんできたよー

静かにカレーの用意
家族がそろって晩酌もあっておいしいカレー
豪華なスパイスもでて益々盛り上がる
ルカの恋話 一義の失恋話 から 修学旅行の引き落とし
祖母の私は年金で自分の分は出しているし、お父さんもお母さんもカリンもお金を入れているから心配ないよ
修学旅行どこ行くの
奈良 へー 行きたいな 去年のハワイは面白かったね 海きれいだった
私会社やめようかな
なんで
あきちゃった
飽きたからってやめていいわけがないだろ 何事も続けることが大切なんだ

 兄妹と母が男を起こす。今日のごはんはなーんで。カレーか。愛情たっぷりカレー。
 今日帰る時に電車の中で目の前に座っていた女がいきなり化粧を始めた。
おれに唇つきだしてこんな顔をして、俺は腹が立つ。人間は相手への気配りが必要なんだ。
高そうなバックもって、なんだブ、ブ、
ブルガリ?
そうヨーグルトみたいなバック、高いんだろ。日本人はいつからそんな馬鹿で贅沢になったんだ。贅沢は敵だ。
かおりは?下の玄関についたって言うからもう来るわよ。ただいま。おう。
父さん、ま、一杯。お、気が利くな。じゃ僕も。おまえまだ幼稚園生だろう。中学生。二年生。
食べましょう。いただきます。おいしい。
おー、これは丸の内に行けば1200円はするぞ。
食べたの。丸の内で働いていた時な。父さん丸の内で働いていたの。ああ、丸の内の壁は俺が丁寧にペンキを塗った。丸の内は俺が育てた。
そうだ。わたしすごいもの買ってきた。じゃーん。本場インドの香辛料セット。レジェンドアールティインディアからの直輸入品。日本では滅多に手に入らないの。
いくらしたんだ。5万円。
馬鹿者、そんなただの粉に、じゃいらないのね。ちょい。一振り1000円かな。かけてかけて。俺もかける。
うまい。
ほんとだ、一振りで変わる。こっちのもかけてみる。ああ、そんなに。おほ、真っ赤だ。父さん何かけたの。ハバネロ。あぅーーー。みみみ。
あ、それ焼酎。ああああ。
死ぬとこだった。はるか、学校面白いか。好きな子でも出来たか。お、その顔はいるな。そんな山田君となんか何でもないよ。山田君ていうの。
おいねその山田とはどこまで行ったんだ。まさか、セクハラまがいの事されてないな。そんなときは俺に言え。ゆるさん。とうさん。セクハラする奴も最低だが
されて黙っている奴も最低だ。いいか。さ、どこまで行った。そんな山田君に消しゴム借りただけだよ。おまえはどうなんだ。え、僕は何にもない。
お兄ちゃんが公園で女の人と会っているの見ちゃった。ほう、やるな。ごめんなさいって言われてた。ごめんなさいって。ごめんなさいって。
やめてよ。とうちゃん、俺来年修学旅行行っていいの。もちろん。あの先生に先月お金が振り込まれなかったって言われたんだ。
あ、ごめん、私先月ちょっと忘れちゃって。そうだ、心配するな。うちは父さんと母さんとそして香織も働いてお金を作っているんだ。心配するな。
あの、さ。なんだ。あの。ピンポーン。はーい。あ、おばあちゃん。
はい約束通り来ましたよ。一夫、いいもの持ってきたよ。なあに。おまえの大好きなカレー。あ……。あらあ。かぶっちゃったね。
おばあちゃんのカレー食べてみたい。おかわりする。俺も。おいしーい。お肉とろとろ。なになんなのこれ。
高校受験に失敗してないていた時もこれ食べて元気になったんだよ。
お母さんのを食べてみる。そうだね。あ。ああ、不思議な味だね。
 
ピンポーン。おじゃましまーす。あ、でれでれとゴンゴン。こんちはおじさん。あのさ、大島行きのチケットとれたんだ。え?あの五泊六日。大島の海の旅。
やったあ。明日からだよ。明日から5泊の海の旅。いえーい。あの水着で泳ぐんだろ。え。ほら携帯におくってきたじゃんこれ。
みせてよ。やだあ。どっちにあるの。あっち。おい、大島って?ああ。うわあ、この水着すごい。これでどこ隠せるの?あたしも着てみたいわ。おばあちゃん似合うかも。
明日から二人でいくのかい?ううん香織と三人で。だって会社は?有給とったの?
だって香織会社やめたて遊びに行きたいって……あれ、これまだおじさんに言ってなかった?
おいどういうことだ。会社やめたって何だ。
あらー、口滑らせちゃったみたい。いけない、お口ミッフィー。さよなら。
 
どういこうとだ。どうして会社やめるって、おい。いいでしょ、私のかってでしょ。なんだその口の利き方は。いいか物事は続けることが大事なんだ。
ペンキ塗りだって、地道に何度も何度も重ねて縫って、勉強だって続けるからこそ合格するんだ。模型作りだって寝ないでやったからあんな立派な賞とったんだろ。
おまえだって中学3年の時お祭りでみかぐら踊ってみんなに拍手浴びて、あんなにつらいつらいっていってでもがんばり続けたから楽しかったんじゃないのか。
つらい事があっても続けるから乗れ越えられるんだ。恋愛だってそうだ。一人に決めたらずっとそれを守るから、たとえ何かがあっても自分で決めたことはじっとやり通すから良いんだ。
やり通すから。言ってみろ。なぜやめるんだ。
まったく俺はそんな根性なしにそだてた覚えはない。そんな変な情けない奴に育てた覚えはない。いったい誰に育てられたんだ。
ちょっとそれじゃ私が悪いって言うの。

おまえこのカレーに何を入れた。
隠し味でめんつゆ。
めんつゆが隠れてねえんよ。これじゃめんつゆ風味のカレーじゃなくて、カレー風味のめんつゆだ。こんなもの食えるか。
 
ちょっとここでタバコすわないでちょうだい。俺のうちだ。俺の勝手だ。天井のタバコの脂を掃除するのは誰。ベランダ行って。けっ。
あ、お腹痛くなってきた。トイレ行ってくる。
かおり、どうしたの。何かあったの。はるかはおばあちゃんと買い物行こうか。いい。何があったの。あたしね。うん。
紙どこ、なくなってたよ。棚の上。あ、そ。
どうして会社やめたの。
会社の上司にセクハラ
セクハラ?!会社の上司に。おい、ななんだと。ゆるさん。うちの娘に手をつけるなんてゆるさん。丸の内の田中だな、おれが一発。
とうさんやめて、うるさい。やめなさい。あたしが行ってくる。かあさん。 
どうしたんだい。おばあちゃん、あたしの会社の上司にセクハラ仕掛けたの。そしたら首になったの。
セクハラしかけ。そんなんじゃないの、でもずっと一緒に居ようとしたら、
好きなのかい。その人。奥さん居るの。子供も。奥さんが会社に来てあたし……

やめた。やめた。今日はやめた。いいか香織、あした父さん会社に行ってくるか。あたしも行くから。いかなくていい。
だめだこういう事ははっきりしないと。いかなくていい。だめだ。あのな。娘の言うことを聞きなさい。おかあさん?
あんたは娘の決めたことが信じられないの?だってかあさん。私の言うことが聞けないって言うの。それは。
あんたのおしめを替えたのは私です。あんたがお湯の中に使って気持ちよくなっておしっこをちゃーと出した時、かぶったのは私です。
私の言うことが聞けないって言うの。あんたの娘の言うことを信じなさい。……はい。
そう、それでいいの。あんたはわかれば素直だからいい。あんたは良い子だ…あ、あれ、あれ、わたしが今日ここに来た理由、美子さん。美子さん。
良い子になったみたいだからいいんじゃない?
  中村家帰宅
   カリンそっぽむいてしまう

128│昭夫 │明夫  カリン。つらかったな。明日父さん会社行くから
│ │カリン  ダメ
│ │明夫  安心しろって
│ │カリン  ダメ!
│ │美子  お母さんも行くから
│ │カリン  来ないで!
│ │叔母  やめなさい。カリンが行かなくていいっていってんだから行
│ │かなくていいの
│ │明夫  だってよお
│ │叔母  娘の事を理解してあげなさい
│ │明夫  でもよお母さん
│ │叔母  何?またパンツ脱いで走りまわるの?
│ │明夫  子供の前でやめてくれよ
│ │叔母  明夫!
│ │明夫  はい
│ │叔母  いい子ねぇいい子には、ねっ?
│ │
│ │   一義 るみ 美子 準備
│ │   
│ │一義 るみ 美子 お父さんいつもありがとう
│ │美子  ほらカリン
│ │
│ │   プリンを並べ始める
│ │
│ │るみ  お父さんいつもお仕事ご苦労様
│ │明夫  ありがとう
│ │一義 はい父ちゃんスプーン
│ │明夫  サンキュ
│ │母 今年ので〇〇年目ね
│ │叔母 銀婚式だねえ
│ │カリン  …なんか今日すみませんでした
│ │明夫  いや俺の方こそゴメン
│ │美子  そうよほらっ仲直り
│ │明夫  食べよう
│ │皆  風と雷上昇気流いただきます
│ │カリン  美味しい
│ │一義 これ毎日食べたいなあ
│ │るみ  ばか、お父さんの誕生日の日に食べるからいいんじゃん
│ │美子  最近は忙しくて年に一度ぐらいしか作ってなかったからね
│ │明夫  いやぁ〜このプリンのおかげで俺は歳をとるのが怖くねえん
│ │だよ!…あぁ〜やっぱ思い出すなぁ。いやあたまたまだったんだ。
│ │たまたま。雨漏りを修理しに行ったら、そこの家の女の人がお礼に
│ │プリン作ってくれたんだ。それまで俺、甘いものがダメだったんだ
│ │けど、その時のプリンが美味しくて。俺女の人にそういうの貰った
│ │の初めてだったから、泣きながら食ったよ。だから俺言ったんだ
│ │一義 るみ  毎年お前のプリンが食べた〜い
│ │カリン  その話何回目?
│ │明夫  おっそれじゃあ毎年恒例の8月3日の宣言言って見ようか!
│ │じゃあ…今年はかずから
│ │
│ │   家族宣言が言ってく
│ │
│ │美子  お父さんは?
│ │明夫  おっ、俺か?俺のはデケェぞ?俺の夢は来年の誕生日までに
│ │自分の工務店をもつ!
│ │カリン  自分の工務店?
│ │   明夫 今の会社の愚痴
│ │
│ │明夫  玄関を開けるとよお、螺旋階段があってよお出窓があって、
│ │花なんかおいてさあ
│ │皆 おぉ
│ │明夫 そこをでるともう空!屋根がガラス張りなんだ。空が見える
│ │んだよ。
│ │カリン  夜星とか見れるじゃん!
│ │明夫  手摺りには俺の彫刻が掘ってあって、家具なんて全部俺がつ
│ │くってやる。だんろの上には俺の作ったオルゴールがおいてあった
│ │りとかして、そういう人が住みたいナァッておもう家をつくりてえ
│ │んだ
│ │皆  凄〜い
│ │明夫 だから皆俺の作った家に住むんだ。そして、そこで毎年プリ
│ │ンを食べような。
│ │皆 うん
│ │明夫  なぁお前らどんな家がいいんだ?
│ │るみ  シンデレラ城とか
│ │美子  ご馳走様しようか
│ │皆  ご馳走様でした
│ │カリン  あー美味しかった
│ │美子 さっ、お風呂入っちゃいなさい
│ │明夫  るみ一緒に入ろうか
│ │るみ  無理。
│ │明夫  カリン一緒に入ろうか
│ │カリン  無理。
│ │一義  父ちゃん一緒に入ろうか
│ │明夫  無理。
│ │
│ │   子供達 はけ
│ │
│ │美子  さっきの話本気なの?

 
 あ、そうですね

 男が寝ていると贈り物の箱を見てびっくりしながら妻が入ってくる。電話。夫の顔色をうかがいながら部屋の外で受ける。
 ペンダントにイニシアルが入っている。と聞いてみてみる。ある。食事に誘われる。スケジュール帳を取りに部屋に戻り、テーブルにネックレスを置いたまま
 再びベランダで電話。夫が起きて不思議そうに話しかける。なんでもないと答える美子の前にネックレス。すっと隠したところを見とがめられる。
 なんでもないと言っている間に、男が焼き餅を焼き始める。口汚くののしる様に「あんたはこんなものをくれたことがなかった」と反撃が始まる。
 あたしが腰を痛めた時だって、息子が悪さをして学校に呼ばれた時だって全部私一人。ちょっとぐらい。
 何が人の女房にこんなもの送る男なんてゆるせねえ。こんなもの、とネックレスを引きちぎる。
 なにするの。おめえに色気なんかねえくせにこんなものいらねえだろ。
 美子は突然動き出す。つかつかつかっと棚から書類を取り出しテーブルに置く。サインして下さい。
 なんだこれ。あたしはもうサインして判も押しました。あとはそちらだけです。
 まて。
 子供達を呼び出す美子。喧嘩の気配におびえていた子供達出てくる。すわらせる。
 お父さんとお母さんどちらについていくか決めなさい。
 末娘が母を選び、姉娘は父を選び、兄は混乱してとびだす。
 子供達の預金通帳と印鑑をおいて女は出て行く。

学校からの呼び出し
いじめ
娘、父にぶつかる。

第四場 宅配便

るみ、勉強している。いらだっている。寝ている父を見て、またけんか腰で勉強。
一義、登場。手に作りかけの木工品。座り、刻む。
二人、目が合うが再び、それぞれに没頭。

129│一義 │(ドアチャイム)はい
130│昭夫 │なんだそれ
131│一義 │母さんから
132│昭夫 │捨てろ
133│一義 │勝手にあけるよ

一義、宅急便の箱を開ける。中から手紙を取り出す。見つめる。

134│るみ │なに。(一義から手紙をもらって読む。昭夫に)よんで。よんで
135│一義 │今日何月何日?
136│るみ │8月3日

一義。中の発泡スチロールのボックスの中からプリンを取り出す。
るみ。見る。昭夫も気がつく。るみ近寄る。るみと一義、プリンを並べる。昭夫も来てすわる。

137│るみ │1行しか書いてなかったね。8月3日お...私、お父さんみたいには
│ │ならないから。お兄ちゃんみたいにならない、お母さんみたいには
│ │絶対…。私勉強する。誰がなんて言おうと私絶対合格してみせるか
│ │ら。それが私の…8月3日の宣言。

一義 オルゴール手渡す

138│昭夫 │何だ。(オルゴールを見て)よく出来てるな
139│一義 │作った
140│昭夫 │どこで覚えた
141│一義 │親父の仕事みてきたからさ

ドアチャイム。一義、出る。

142│一義 │ねぇちゃん。(果林、登場)
143│果林 │ただいま。プリン届いたんだ。もう一個あるでしょ
144│昭夫 │何しにきた
145│果林 │いただきますした?
146│るみ │ううん。
147│果林 │食べよう
148│みんな│(ゆっくりと)風と雷上昇気流いただきます
149│果林 │美味しいね
150│るみ │うん
151│果林 │この間肉屋でトンカツ上げてた母さんと会って。お父さんの誕生日
│ │覚えてた。今度小いけれど、小さなピアノの発表会に出るって。
152│昭夫 │ピアノ……。
153│果林 │あたし今小さなブティックで働いているの。お母さんにドレスプレ
│ │ゼントしちゃった。
154│昭夫 │そうか。
155│果林 │父さん、これ。
156│昭夫 │なんだ。
157│果林 │祭の法被。あたしが縫った。
158│昭夫 │おまえが。
159│果林 │おいしいね。
160│一義 │かあさんのプリンだもの。
161│るみ │お父さんプリン好き?
162│昭夫 │あぁ
163│るみ │世界で1番?
164│昭夫 │いや2番。
165│一義 │じゃあ1番は?
166│昭夫 │さぁな

家族にほんの少し笑顔が取り戻る

167│果林 │あ

プリン取り合う

168│るみ │お母さん戻ってきたいのかな
169│昭夫 │一度決めたことだ
170│るみ │斎藤さんとうまくやってないのかな
171│昭夫 │やめろ。

笑ってしまったるみ。

172│昭夫 │ …明日皆で祭行くか
173│るみ │うん。
174│果林 │法被そでに針入れておいた。
175│昭夫 │おい……

プリンの残りをかき込みながら、祭り囃子の流れてくるのに耳を傾ける三人。


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