消える島


ある地域に少年が友と流れ着いた。高校を中退し、自分の将来を見極めるために、海外をさすらおうとした少年だった。
 だからこんなのいや
 ともに流れ着いたものとなんとか生き延びようとする。
 ここいらは大変な危険地域。日本と比較してこんな所へ来るなんて馬鹿だ。

 岩だらけの砂漠地帯を抜けて、森に入り込み、セブ村にたどり着いた。

 セブ村の人たちは、怖かったが、年寄りが優しくしてくれ、食べ物を分けてくれたので、ようやく仲良くなった。

 セブ村は昨日のヤーナ族が山の頂上の水を流して、洪水を起こされ被害が多く出たことを怒っていた。
ヤーナ村は水を使いこなして、われらを苦しめている。ならば我らは火の技術に優れているではないか。
戦には必ず勝つ。火は砲弾になるほか、開戦の合図、勝利の報告や作戦などの通信手段として使われている。
死者を弔う時にもつかわれる。

 火の番は、何事も自分が中心でなければ我慢できない人だった。はじめての人間にはまず優しく接し、
やがて、チャンスを得て相手の弱点を徹底的に暴き立て、集団の中で主導権を握った。
彼は新作戦で爆弾を抱いて相手の中に飛び込む戦法をとなえていた。

 セブ村の兵士の中に、女が居た。気性が激しく、あれているが、誰にも組しなかった。
火の番の言うことも聞いているのかいないのか、ただ海を見つめていた。
男達がからかうと敵意をむき出しにする。

 少年は瞬時に女の優しさを感じた。夢の人と呼んで愛していく。

 村人達が戦いの準備をしている。小競り合いの報告もされた。
少年は戦いを良くない事と感じる。小さな子まで巻き添えに?悲しく思った少年は口ごもる。
この優しい人たちがなんという残虐な聞くに堪えない言葉を平気で使うのだろう。
少年は日本で音楽は得意ではなかったが、今、何も持っていない状況で一番働きかけられるものを悟る。リズムとメロディーだ。
 音楽さえあれば、心は和み、諍いはきっと収まると力説する。

 村人はそんな夢見たいな事と少年の言う事を信じない。この火を使う村は音楽を楽しむ習慣がない。
少年は手近にあるものを探す。村人は食器や椰子の実を使ってリズムを使う少年の音楽に興味を持ちはじめる。
リズムとパーカッション。これは面白い。
 さらに少年は、美しく哀しい曲を紹介する。
故郷を懐かしみ母や父を慕う歌だ。その優しく切ないメロディーに村人は、しんみりとする。
本当に戦いがない日が来ればいいのに。

 村人達は、楽器を作ることを習い、材料や道具を集めに森や海岸に散っていく。
残った女に少年は話しかける。
やらない?これをはじけば。心が安まる。
 やすまるもんか。
 あなたも戦いの場に行くの?
 何人でも道連れにしてやる。
 相手を傷つけても心がすさむだけ。僕の住んでいるところにはこんな話があるんだ。
少年は、相手をいやして、自分も浮かばれた伝説の湖の竜姫の話をする。

 女は答える。そんなのはごまかしだ。あいつらを恨み続ける。
あいつらは鶏を見れば人の庭から持ち去り、台所からパンを奪い、子供を見れば殺し、女をみれば陵辱する。
 少年は それは、こちらの人がそれをしたからじゃないか。だから、
女 あたしはあいつらに父母を殺された。妹と私はひどい目に遭わされた。
一人で暮らすようになった時、この村の男どもだって、私をかわいそうだと近寄って。
私はもうなんでもかまわない。ただ血が見られさえすれば。
 そんな事を……あなたはそんな人ではない。あなたの目の中には悲しさが居座っている。
 私はすくわれないの。
 あなたが一つだけ相手をいやせることが出来たら、きっと、それはあなたの心の中に安らぎをもたらすよ。
いま始まっているこの事件の中で相手をいやすことは出来ないだろうが、一歩だけでもしてごらんなさい。
あなたは美しい人なのだから。
 
 そこに敵の来襲の報がはいる。戦士達は戦いの準備を整え、飛び出していく。
敵の数は多く攻撃も激しかったので、セブ村の兵士はちりぢりバラバラになってしまう。
 女は、一人で立ち向かうが、その強さはひの力に助けられ、岩を砕き、森を引き裂く。
向かうところ敵なく、敵の小隊に囲まれたものの、たちまち一人また一人と、森の広場に捕まえる。
 捕らえられたもの達は女に聞く。あなたは私たちを殺すのですか。
 このしかけのひもを引けばあなた達はみな消えてしまう。
 わかりました。私たち水の国の弔いの曲を聴きながらそれを受けましょう。
 弔いの曲?
 この子が奏でます。私たちの心はそれでいやされるのです。お願いです。
 じゃあさっさとすませて。
 弔いの曲が、奏でられる。哀しい笛の音。

 敵のヤーナ村の捕虜達は女に願う。処刑される前に笛を最後に吹きたい。
「あんたたちも音楽をやるのかい。」と女は、その笛を聞く。その鎮魂の曲を聞いて、女は涙ぐんでしまう。
 あんたたちにはどうしてそんな音楽があるの?
 水の泡がいつも私たちにささやきかける。ぴちっ、ぴちっ、と。
 風が波をさそえば、そこにメロディーが生まれる。私たちは歌と共に育ち、私たちの歌は世界に広がった。
 世界に広がったって、何故、私の国には来てないよ。それはあなた方の先祖が私たちの歌を封印したためだ。
 もう一度聞かせておくれ。もう一度。


 笛を合図にヤーナ村の援軍があらわれ、目をつむった女に襲いかかる。
女は暴れ抵抗するが一度ゆるんだ気持ちがもとに戻る前に、ヤーナ村の男達に陵辱されてしまう。
ヤーナ村の戦士達は、女の居なくなった村めがけて走っていく。双方に沢山の死者がでる。
 火の番は、妻を殺され、最後の火、島の火山のスイッチを入れる。

 少年は心配で森の中に彼女を追ってくる。やっとの事で逃げてきた変わり果てた彼女を見る。

 助けおこそうとする少年を女は拒否する。少年をなじる。あんたの音楽を愛する心が私を狂わせたんだ。
おまえが教えた理想、人と人が仲良くするなんて、ただの戯言だ。
心を癒す事などなく、あいつらを打ち倒していれば、良かったんだ。あんた、出て行きな。

少年はどうしようもなく立ちつくす。

 島中にとどろくスピーカーで少年を呼ぶ声がする。日本から来た救助隊が少年を助けに来たのだ。
救助隊が彼を見つける。こんな危険な地区でよく生き残っていた。さっさと島を出よう。日本での良い生活にもどれる。

 ここはされないと少年は言う。
 おまえに何が出来るのか。何も出来ないではないか。ここの事はここの人達に任せるのがいい。

 少年が船に乗り島を去ろうとする時、ヤーナ村から笛の音が聞こえてくる。
それは彼がセブ村の人々の心を慰めるためにおしえたあの歌だ。
ヤーナ村の酋長が戦いで死んだ息子のために歌っている。
それはヤーナ村の歌だったのだ。その歌が地球をまわり彼のもとについていたのだ。

 少年は船ごと引き返す。歌う。スピーカーを使って。
セブ村の子供達が歌い出す。
ヤーナ村からも声が続けて聞こえている。
やがてセブ村の大人達も歌い出した。

島のあちらとこちら、戦線の向こう側とこちら側で、歌声が響きあう。

 少年は木を太鼓にたたき出す。セブ村の人たちもパーカッションリズムを紡ぎ出す。
ヤーナ村からも、パーカッションが聞こえてきて、セッションになる。
 終わると両軍から拍手がわきおこる。両軍が島のあちこちから出会おうとした時、火山り爆発が始まる。神の怒りか、島は、揺れ、割れ、沈んでいく。

 遠ざかる船の上で、少年は、じっと島のあったところを見ている。竪琴を手に取る。少しならして、風を受ける。


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